特開2011-228674|微細凹凸構造を表面に有する物品の製造方法

産業上の利用可能性

微細凹凸構造を表面に有する物品の製造方法は、光学部材(反射防止物品、回折格子物品、光散乱物品等)、有機ELの光取り出し構造付基材、太陽電池基材向けの光閉じ込め構造付基材等の効率的な量産にとって有用である。

背景

微細凹凸構造を表面に有するモールドと基材との間に硬化性組成物を挟持し、これを硬化させて、モールドの微細凹凸構造が転写された硬化物層を基材の表面に形成する方法、いわゆるインプリント法が注目されている。

基材およびまたはモールドの表面に、アルコキシシランを含む塗布液を塗布して塗布液層を形成し;塗布液層を介して基材とモールドとを重ねた後、塗布液層を加熱して部分硬化させて部分硬化物層を形成し;部分硬化物層からモールドを離型した後、基材の表面の部分硬化物層を高温にて焼成してガラス体からなる硬化物層を形成して、微細凹凸構造を有する硬化物層が基材の表面に形成された物品を製造する方法が知られているが、下記の問題がある。
(i)塗布液は、アルコキシシランのゾルが加水分解・縮合反応によってゲルの状態になっているため、ゲルがモールドの微細凹凸構造に十分に追随できず、モールドの微細凹凸構造の転写性が悪い
(ii)モールドと基材との間に塗布液層を挟持した状態で部分硬化を行うため、アルコキシシランの加水分解・縮合反応によって発生するアルコール類や水、塗布液の溶媒が、部分硬化物層に気泡として残存し、これが硬化物層に残存する。
(iii)部分硬化物層を高温にて熱硬化させて硬化物層を形成しているため、硬化物層の形成に時間がかかり、また、耐熱性のない基材(プラスチック等)を用いることができない。

解決するための手段

微細凹凸構造を表面に有する物品の製造方法は、微細凹凸構造を有する硬化物層が基材の表面に形成された物品を製造する方法であって、下記の工程(I)〜(IV)を有することを特徴とする。

(I)微細凹凸構造を表面に有するモールドの該表面に、下記式(A)で表わされる化合物、その加水分解物、およびその縮合物からなる群から選ばれる1種以上と、光感応性酸発生剤と、レベリング剤とを含む塗布液を塗布して、塗布液層を形成する工程。

Si(OR ・・・(A)

ただし、Rは、アルキル基またはアリール基であり、Rは、アルキル基であり、xは、0〜3の整数であり、x+yは、4である。

(II)塗布液層を部分硬化させて、ナノインデンテーション測定において、0.4mN試験荷重がかかった時の押し込み深さが、0.18μm以上である部分硬化物層を形成する工程、または、塗布液層を部分硬化させて、赤外吸収スペクトルにおける、シロキサン結合に起因するピーク面積A1と、シラノール基に起因するピーク面積A2との比(A1/A2)が、3〜120である部分硬化物層を形成する工程。
(III)部分硬化物層を介して、モールドと基材とを重ねた後、部分硬化物層に活性エネルギー線を照射することによって部分硬化物層をさらに硬化させて、硬化物層を形成する工程。
(IV)硬化物層から前記モールドを離型して、微細凹凸構造を有する硬化物層が前記基材の表面に形成された物品を得る工程。

さらに下記の工程(I')を有することが好ましい。
(I')工程(II)の前に、基材の表面に、式(A)で表わされる化合物、その加水分解物、およびその縮合物からなる群から選ばれる1種以上と、光感応性酸発生剤と、レベリング剤とを含む塗布液を塗布して、塗布液層を形成する工程。塗布液は、さらに平均粒子径が250nm以下の微粒子を含んでいてもよい。微粒子は、氷晶石、酸化インジウムスズ、または酸化チタンであることが好ましい。

実施例

測定方法

分子量測定方法

分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)によって測定した。測定条件は下記の通りである。
溶離液:テトラヒドロフラン、
流速:1.0mL/min、
温度:40℃、
カラム:
・TSK:guard column HXL−L (サイズ:6.0×40)、
・TSKgel:GMHXL (サイズ:7.8×300)、
・TSKgel:GMHXL (サイズ:7.8×300)、
・TSKgel:G1000HXL (サイズ:7.8×300)。

モールドの微細凹凸構造の形状観察

モールドの一部を削り、断面にプラチナを1分間蒸着し、走査電子顕微鏡(日立ハイテク社製、S−4300SE/N)を用いて、加速電圧:5.00kVの条件にて、断面を観察し、微細凹凸構造における各寸法を測定した。各測定は、それぞれ50点について行い、平均値を求めた。

硬化物層の微細凹凸構造の形状観察

硬化物層の断面にプラチナを1分間蒸着し、走査型電子顕微鏡(日立ハイテク社製、S−4300SE/N)による断面写真から、微細凹凸構造における各寸法を求めた。
比較例1については、原子間力顕微鏡(キーエンス社製、VN−8010、カンチレバーDFM/SS−Mode)を用いて、微細凹凸構造における各寸法を測長した。

ナノインデンテーション

ナノインデンテーション測定は、Fischerscope HM2000を用いて行った。測定に使用する圧子には、ダイヤモンド製の四角錐型、対面角135度のものを用いた。23℃、相対湿度50%環境下、荷重をF、経過時間をtとした時に、この圧子を硬化物に対しdF/dtが一定となるよう20秒間で1mNまで荷重させ、0.4mN試験荷重がかかった時点の圧子押し込み深さを求めた。
また、荷重をF、経過時間をtとした時にこの圧子を硬化物に対しdF/dtが一定となるよう20秒間で1mNまで荷重させた後、5秒間クリープさせ、その後荷重時と同じ条件で除重させる測定条件において、荷重を、接触ゼロ点を超えて侵入した圧子の表面積で除すことでマルテンス硬さを求めた。

ナノインデンテーション

ナノインデンテーション測定は、Fischerscope HM2000を用いて行った。測定に使用する圧子には、ダイヤモンド製の四角錐型、対面角135度のものを用いた。23℃、相対湿度50%環境下、荷重をF、経過時間をtとした時に、この圧子を硬化物に対しdF/dt2が一定となるよう20秒間で1mNまで荷重させ、0.4mN試験荷重がかかった時点の圧子押し込み深さを求めた。
また、荷重をF、経過時間をtとした時にこの圧子を硬化物に対しdF/dt2が一定となるよう20秒間で1mNまで荷重させた後、5秒間クリープさせ、その後荷重時と同じ条件で除重させる測定条件において、荷重を、接触ゼロ点を超えて侵入した圧子の表面積で除すことでマルテンス硬さを求めた。

赤外吸収スペクトル

FT−IR(サーモニコレー社製、NEXUS470)によるATR法にて部分硬化物層の赤外吸収スペクトルを測定した。具体的には、FT−IRにATR測定用アクセサリー(スペクトラテック社製、FOUNDATION ThunderDome)を取り付け、分解能:4cm−1、積算回数:32回で測定した。ピーク面積は、FT−IR解析ソフト(サーモニコレー社製、OMNIC)の積分ツールを用いて求めた。得られた赤外線吸収スペクトルから、ピーク面積比A1/A2を求めた。

屈折率

プリズムカプラー(メトリコン社製、モデル2010)を用いて波長:594nmのレーザーに対する硬化物層の屈折率を測定した。

耐熱性

TG−DTA測定装置(理学電機社製、TG8120)を用いて下記の条件で測定を行った。
・測定条件:25℃〜900℃、10℃/minで昇温、空気雰囲気。
・分解温度:TGで質量減少温度範囲でのDTAピーク値を分解温度とした。

評価方法

塗布液、硬化物層の評価方法は下記の通りである。評価時の温度は指定がある場合を除き室温(約25℃)とした。

 

塗布性

モールドの表面の塗布液層を目視観察し、下記の基準で判定した。
○:モールド全体に塗布液層が形成されていた。
△:モールドのエッジ部分にハジキがあるが、全体的に塗布液層が形成されていた。
×:塗布液層が形成されていない。

気泡

硬化物層の中央部分の1cm□内を目視観察し、下記の基準で判定した。
○:気泡の残存は確認されなかった。
△:気泡が1〜10個程度であった。
×:気泡が10個以上であった。

モールドa賦型結果

硬化物層の賦型中央部分の表面を走査型電子顕微鏡で観察し、下記の基準で判定した。
○:モールドの微細凹凸構造が反転した、ピッチ100nm、高さ200nmのモスアイ構造が形成されていた。
×:モールドの微細凹凸構造が反転した、ピッチ100nm、高さ200nmのモスアイ構造が形成されていなかった。

樹脂モールドb賦型結果

硬化物層の断面と表面にプラチナを1分間蒸着し、走査電子顕微鏡(日立ハイテク社製、S−4300SE/N)による断面写真から、突起の高さを求め、表面写真からピッチを測長し、下記の基準で判定した。
○:賦型構造A−F全てが樹脂モールドbの反転転写の形状となっている。
×:賦型構造A−Fの少なくとも1つ以上が樹脂モールドbの反転転写の形状となっていない。

総合判定

塗布性、気泡、そしてモールドからの転写性として「モールドa賦型結果」または「樹脂モールドb賦型結果」の3つの評価を総合的に下記の基準で判定した。
◎:全ての評価が○である。
○:2つの評価が○であり、かつ1つが△である。
×:2つ以上の評価が△である、または1つ以上の評価が×である。

モールド

モールドa

50mm×50mm×厚さ0.3mmのアルミニウム板(純度:99.99%)を、過塩素酸/エタノール混合溶液(1/4体積比)中で電解研磨した。
工程(a):該アルミニウム板について、4.5質量%シュウ酸水溶液中で、直流:40V、温度:16℃の条件で6時間陽極酸化を行った。
工程(b):酸化皮膜が形成されたアルミニウム板を、6質量%リン酸/1.8質量%クロム酸混合水溶液に9時間浸漬して、酸化皮膜を除去し、細孔発生点を形成した。
工程(c):該アルミニウム板について、3質量%シュウ酸水溶液中、直流:40V、温度:16℃の条件で30秒間陽極酸化を行った。
工程(d):酸化皮膜が形成されたアルミニウム板を、32℃の5質量%リン酸水溶液に8分間浸漬して、細孔径拡大処理を行った。
工程(e):該アルミニウム板について、3質量%シュウ酸水溶液中、直流:40V、温度:16℃の条件で30秒間陽極酸化を行った。
工程(f):前記工程(d)および工程(e)を合計で4回繰り返し、最後に工程(d)を行い、平均間隔:100nm、深さ:200nmの略円錐形状の細孔を有する陽極酸化アルミナが表面に形成されたモールドaを得た。
工程(g):シャワーを用いてモールドaの表面のリン酸水溶液を軽く洗い流した後、モールドaを流水中に10分間浸漬した。
工程(h):モールドaにエアーガンからエアーを吹き付け、モールドaの表面に付着した水滴を除去した。
工程(i):離型剤(ダイキン工業社製、オプツールDSX)を希釈用有機溶媒(ハーベス社製、デュラサーフHD−ZV)で希釈して、離型剤濃度が0.1質量%である希釈溶液を調製した。モールドaを離型剤の希釈溶液に室温で10分間浸漬した。
工程(j):モールドaを、希釈溶液から3mm/secでゆっくりと引き上げた。
工程(k):恒温恒湿器を用いて、モールドaを温度60℃、相対湿度:85%に1時間放置し、加熱加湿処理した。 工程(l):モールドaを一晩風乾して、離型剤で処理されたモールドaを得た。

モールドb

以下の構造を混載したモールドb(協同インターナショナル社製、シリコン製お試しモールド(2))を用意した。
・構造A:ピッチ1μm、高さ1μmのピラー構造(矩形部分の幅500nm、ピッチ1μm)。
・構造B:ピッチ8μm、高さ1μmのピラー構造(矩形部分の幅4μm、ピッチ8μm))。
・構造C:ピッチ1μm、高さ1μmのホール構造(矩形部分の幅500nm、ピッチ1μm)。
・構造D:ピッチ8μm、高さ1μmのホール構造(矩形部分の幅4μm、ピッチ8μm))。
・構造E:ピッチ1μm、高さ1μmのラインアンドスーペース構造(矩形部分の幅500nm、ピッチ1μm)。
・構造F:ピッチ8μm、高さ1μmのラインアンドスーペース構造(矩形部分の幅4μm、ピッチ8μm))。

樹脂モールドb

賦型樹脂の調製:1,6−ヘキサンジオールジアクリレートの50質量部およびトリメチロールエタン/アクリル酸/コハク酸(2/4/1)の縮合物の50質量部、ベンゾイルエチルエーテル(以下、BEEと略す。)の3部を加え、BEEが溶解するまで撹拌し、アクリルモノマー液(J−1)を調製した。
賦型:モールドbに対し、アクリルモノマー液(J−1)を滴下し、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略す。)フィルム(東山フィルム社製、HK−31)で易接着面がアクリルモノマー液(J−1)側に来るように挟み、PETフィルム上からゴムローラーで加圧することでアクリルモノマー液(J−1)押し広げ、PETフィルム側から1000mJ/cmの照射強度にて紫外線を照射してアクリルモノマー液(J−1)を硬化させ、モールドbからPETフィルムを剥離し、樹脂モールドを得た。
離型剤処理:離型剤(ダイキン工業社製、オプツールDSX)を希釈用有機溶媒(ハーベス社製、デュラサーフHD−ZV)で希釈して、離型剤濃度が0.1質量%である希釈溶液を調製した。樹脂モールドを離型剤の希釈溶液に室温で10分間浸漬した。 樹脂モールドを、希釈溶液から3mm/secでゆっくりと引き上げ、23℃、相対湿度50%環境下、24時間風乾し、樹脂モールドbを得た。

実施例

メチルトリメトキシシラン(多摩化学社製)の3.68g、フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM−103)の0.67g、ジメチルジメトキシシラン(信越化学社製、AY43−004)の0.41g、イオン交換水の0.88g、プロピレングリコールモノメチルエーテルの1.00g、γ−ブチロラクトンの0.75g、シリコーン系レベリング剤(東レダウコーニング社製、L−7001)の1質量%γ−ブチロラクトン溶液の1.00g、光感応性酸発生剤(三新化学工業社製、SI―80L)の50質量%γ−ブチロラクトン溶液の0.1gを室温下で15分間撹拌し、塗布液A−1を得た。
工程(I)、(I'):モールドaおよびアクリルフィルムx(三菱レイヨン社製、アクリプレンHBK002、長さ:10cm、幅:5cm)のそれぞれの表面に、塗布液A−1を適量滴下し、バーコーターNo.26を用いて乾燥後の厚さが3〜4μmになるように塗布し、塗布液層を形成した。塗布性を評価した。結果を表1に示す。
工程(II):モールドaの表面の塗布液層およびアクリルフィルムxの表面の塗布液層を、90℃で約4分間加熱し、部分硬化物層を形成した。部分硬化物層の赤外吸収スペクトル測定およびナノインデンテーション測定を行った。結果を表1に示す。
工程(III):部分硬化物層を介してモールドaとアクリルフィルムxとを重ね、ゴムロールで加圧して貼り合わせた後、90℃で10分加熱した。コンベアを備えた120W/cmの高圧水銀ランプ(オーク製作所社製、紫外線照射装置、ハンディーUV−1200、QRU−2161型)を用いて、積算光量:1000mJ/cmの紫外線を、アクリルフィルムx側から部分硬化物層に照射し、硬化物層を形成した。
図5工程(IV):硬化物層からモールドaを離型して、複数の突起を有する硬化物層がアクリルフィルムxの表面に形成された物品を得た。硬化物層の突起の平均間隔、高さを求めた。結果を表1に示す。硬化物層の気泡、モールドの微細凹凸構造の転写性を評価した。結果を表1に示す。塗布液の塗布性に優れ、硬化物層に気泡も残存せず、図5の硬化物層の走査型電子顕微鏡像に示すように硬化物層の表面にモスアイ構造(平均間隔:約100nm、高さ:約200nm)が形成されていた。

表1

比較例

工程(I"):アクリルフィルムxの表面に、塗布液A−1を適量滴下し、バーコーターNo.26を用いて乾燥後の厚さが3〜4μmになるように塗布し、塗布液層を形成した。
工程(II):アクリルフィルムxの表面の塗布液層を、90℃で約2分間加熱し、部分硬化物層を形成した。
図6 工程(III):アクリルフィルムxの部分硬化物層に、モールドaを重ね、ゴムロールで加圧して貼り合わせた後、90℃で10分加熱した。コンベアを備えた高圧水銀ランプ(実施例1と同じ)を用いて、積算光量:1000mJ/cmの紫外線を、アクリルフィルムx側から塗布液層に照射し、硬化物層を形成した。
工程(IV):硬化物層からモールドaを離型して、硬化物層がアクリルフィルムxの表面に形成された物品を得た。結果を表1に示す。
図6の硬化物層の走査型電子顕微鏡像に示すように硬化物層の表面に凹凸は見られたが、モスアイ構造は形成されていなかった。原子間力顕微鏡を用いて凸部の寸法を測定したところ、平均間隔は400nmであり、高さは30nmであった。

    

【符号の説明】1 物品 10 基材 20 硬化物層 22 突起(微細凹凸構造) 24 塗布液層 25 塗布液層 26 部分硬化物層 27 部分硬化物層 28 部分硬化物層 32 細孔(微細凹凸構造) 40 モールド



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